第37回日本トキシコロジー学会学術年会発表内容

本ページは第37回日本トキシコロジー学会学術年会にて発表した内容を、抜粋・まとめたものです。掲載されているデータはすべて発表者に帰属します。無断転用、印刷配布はしないでください。内容へのご質問等はヤマサ醤油営業情報室へお問い合わせ下さい。
また、ヤマサ醤油では2011年9月より80072 ラット/マウスSP-Dキット「ヤマサ」EIAを販売 いたします。下記発表にありますELSIAはプロトタイプであり、製品とは仕様が異なっております。発表中の測定方法、測定値等は製品とは異なる点もござ います。あくまで研究開発時の参考値としてご参照下さい。


ラット/マウスにおけるサーファクタントプロテインD
急性肺障害マーカーとしての有用性

村山 寛, 永江 尚人, 村田 誠, 濱沖 勝(ヤマサ醤油 (株)診断薬事業部 )
黒木 由夫, 高橋 弘毅( 札幌医科大学医学科)

 

【目的・背景】
サーファクタントプロテイン-D (SP-D) は肺胞Ⅱ型上皮細胞で産生されるC型レクチンのコレクチンサブグループに属する分子量43kDaのコラーゲン様構造を持つ糖蛋白質あり、コラーゲン様領域 の部分で3本のポリペプチドがトリプルへリックスを形成した3量体を作り、これがさらに4個集合した十字架様構造を形成する。SP-Dの生理機能として は、SP-Dの脂質代謝動態への関与の他、自然免疫生体防御において重要な役割を果たしていることが報告されている。
一方、ヒト血清SP-Dは間質性肺炎患者で高値を示すことから、間質性肺炎の診断用マーカーとして広く利用されているが、ラット・マウスで利用できる測 定系はなかった。近年、薬剤性間質性肺炎が問題となっており、前臨床試験の段階で毒性を簡便に評価する方法が求められている。今回我々は、ラットSP-D に対するELISAの系を構築し (Exp Lung Res.2010 Oct ; 36(8):463-8.) 、ブレオマイシン誘導肺線維症ラット/マウスを用いて血清SP-D測定の有用性を検討した。

【結果】
1. ラットSP-D ELISA系の構築
抗ラットSP-Dモノクローナル抗体
ラット気管支肺胞洗浄液から精製したSP-DをBALB/cマウスに免疫し、モノクローナル抗体29クローン得た。それらの中からELISAに最適なクローンの選別を行い、クローン12A2と6D1の組み合わせでELISAの系を構築した。
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Figure 1 抗ラットモノクローナル抗体12A2 and 6D1を用いたウエスタンブロッティング

ELISA系の構築
Figure 2に示すプロトコルにより、インキュベーション時間合計3.5時間、ラット血清50倍希釈およびマウス血清10倍希釈 で測定が可能であった。
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Figure 2 ELISA の測定法の概略図.
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Figure 3 ELSIAの標準曲線
ELISAの性能評価
各試験はいずれも良好な結果を示した。第37回日本トキシコロジー学会学術年会発表内容第37回日本トキシコロジー学会学術年会発表内容
Figure 4 希釈直線性試験
Table 1 Normal ratの血清SP-D値
Table 2 添加回収試験
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Table 3 同時再現性, 日差再現性
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2. 急性肺障害モデルの血中SP-Dの測定
ブレオマイシン誘導肺線維症モデル
ラットおよびマウスに、ブレオマイシンを気管内投与し、ELISAにて血清SP-D濃度測定を行ったところコントロールに対して高値を示した。

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Figure 5 ブレオマイシン肺障害ラットの
血清SP-Dの経時変化
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Figure 6 ブレオマイシン肺障害マウスの
血清SP-D値

塩酸気管内投与肺障害モデル
BALB/cマウスに塩酸 (0.1N) を気管内投与し、ELISAにて血清SP-D濃度測定を行った。コントロールに比べ、塩酸を投与したマウスの血清SP-D濃度は、投与後上昇し48時間でピークに達した。
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Figure 7 塩酸気管内投与マウスの血清SP-D値
【結論】
ブレオマイシン誘導肺線維症モデルは、急性肺障害による高度の炎症に伴って線維化が出現することが知られており、血清SP-D濃度は報告されている肺 lysateの炎症性サイトカインの変動パターンと類似した挙動を示したことから、炎症の程度を反映している可能性があると考えられた。以上の結果より、 ラットとマウスにおいて血清SP-Dは急性肺障害の有無を判断する有用な手段になり得ると考えられた。