潰瘍性大腸炎モデルラットにおけるS100A9の変動

はじめに

S100A9は、腸内で炎症が生じた際に、マクロファージから早期に放出さることが報告されており、炎症性腸疾患のマーカーとして有用とされています。また、潰瘍性大腸炎モデルラット糞便中のS100A9量は早期から上昇を示すため、炎症性腸疾患の判定に有用です。
本ページは潰瘍性大腸炎モデルラットにおけるS100A9の変動についてのデータをまとめたものです。無断転用、印刷配布はしないでください。内容へのご質問等はヤマサ醤油営業情報室へお問い合わせ下さい。なお、一部データは製品リーフレットにも記載しておりますので、ダウンロードしてご利用ください。

大腸組織中のS100A9の変動

Wistar Ratに硫酸デキストラン(DSS)を7日間連続投与(8日目以降は水を投与)したDSS誘導潰瘍性大腸炎モデルラット(UCR)の直腸組織中のS100A9発現について蛍光組織染色法にて検討しました(図1)。投与4日目ではS100A8とS100A9は同程度存在していましたが(Yellow)、6日目ではS100A9(Green)のみが増加していました。また、投与を中止後は、再び S100A8とS100A9は同程の量で存在していました。
また、DSS投与 6日目の直腸、中結腸および近位結腸の組織中のS100A8、S100A9およびS100A8とS100A9の複合体を測定しました(図2)。UCRでは直腸組織中にS100A9が、コントロールラット(Control)に比べ高濃度で存在していました。 一方、免疫抑制剤であるTacrolimusを同時に投与した群(TMR)ではS100A9の発現が抑制されました

図1 潰瘍性大腸炎モデルラット直腸組織の蛍光組織染色結果
Red: 抗S100A8抗体、Green: 抗S100A9抗体、Yellow: Marge

図2 潰瘍性大腸炎モデルラット大腸組織のS100A9量
UCR:DSS誘導潰瘍性ラット、TMR:DSS+Tacrolimus投与ラット、Control:水投与コントロールラット

(データは長浜バイオ大学客員教授 池本  正生先生提供)

糞便中S100A9量の変動

DSS誘発潰瘍性大腸炎(UC)モデルラットおよびコントロールラットの糞便を回収、抽出して本キットにてS100A9含有量を測定しました。同時に下痢および血便スコアを合計したDisease Activity Index score (DAIスコア)との比較を行いました(図3)。
UCラット群において、S100A9はDSS投与開始後2日目でコントロール群に対して有意に高値を示しました(p<0.01)。DAIスコアは6日目でコントロール群より有意に高値を示しました(p<0.05)。DSS投与2日目の大腸を組織染色したところ、粘膜下にリンパ球侵潤が見られるなど、炎症の症状が認められたことから、S100A9は大腸の炎症を早期から反映していることが示唆されました。

図3 潰瘍性大腸炎モデルラット糞便中S100A9量の変動

(データは第42回日本毒性学会より(一部改変))