L-グルタミン酸測定キット「ヤマサ」NEO
L-グルタミン酸は、「うま味」成分の一つして知られており、ナトリウム塩であるL-グルタミン酸ナトリウムは「うま味調味料」の主成分として用いられて います。また、動物の体内でグルタミン酸受容体を介しての神経伝達を行う興奮性の神経伝達物質としても機能しています。そのため、L-グルタミン酸を検 出・定量することは食品や生化学の分野において重要視されています。
L-グルタミン酸の測定には、アミノ酸分析機やグルタミン酸脱水素酵素、脱炭酸酵素を用いた方法などがありますが、どれも正確性や再現性に欠けたり、手間が複雑であったり高価であるなどの諸問題が指摘されています。
ヤマサ醤油では、1983年醤油研究の過程で Streptomycesの一種がL-グルタミン酸特異的に作用する酵素L-グルタミン酸オキシダーゼを産生することを見いだし1)、製品化に成功しました。さらに本酵素を用いて、L-グルタミン酸を簡単に測定できる方法を開発しました(測定原理参照)2)3)。この方法を基に、簡便にL-グルタミン酸を測定できる試薬として製品化したのがヤマサ L-グルタミン酸測定キット4)で、2008年からは改良を加えたヤマサ L-グルタミン酸測定キットⅡを販売してまいりました。
本品は、ヤマサ L-グルタミン酸測定キットⅡをさらに改良したものです。測定に必要な試薬はすぐに使える状態で添付されており(製品内容参照)、より使い易くなり、簡単な操作でL-グルタミン酸を定量できます(測定方法参照)。
ヤマサ L-グルタミン酸測定キットⅡからの改良点についてはキットの特徴をご覧下さい。
試料にR1酵素試薬液を添加すると、アスコルビン酸オキシダーゼの作用で試料に含まれるアスコルビン酸(ビタミンC)が除かれます。続いてR2酵素試薬液を添加すると、 L-グルタミン酸はL-グルタミン酸オキシダーゼの作用で酸化され、過酸化水素を生成します(①)。生成された過酸化水素からペルオキシダーゼの作用によるTOOSと4-アミノアンチピリンとの酸化縮合反応で紫色色素が生成されます(②)。この紫色の吸光度(555nm)から試料中のL-グルタミン酸濃度を定量します。
【特徴】
本製品は従来製品(80057 ヤマサ L-グルタミン酸測定キットⅡ)と比較して、下記特徴をもってL-グルタミン酸を測定できます。
○ | 本製品は、構成試薬がすべて溶液状態で添付されており、すぐに使うことができます。 | |
○ | 従来製品の酵素試薬は使用直前に添付緩衝液で溶解し、溶解後の安定性は1ヶ月間でしたが、 本製品の両酵素試薬液は製品外箱ラベルに記載されている使用期限まで使用できます。 |
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○ | 必要な試料はわずか0.01mLと、より少量の試料での測定が可能となりました。 | |
○ | 測定範囲が10~1500mg/Lに広がりました。 | |
○ | 従来製品ではアスコルビン酸が共存する試料の場合、前処理が必要でしたが、 本製品では1000mg/L共存しても測定に影響はなく、前処理は必要ありません。 |
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○ | 測定可能検体数、貯蔵方法、使用期限は従来製品から変更はありません。 また、測定値も従来製品と相違はありません。 |
【製品比較表】
本製品と従来製品との比較を下記に示します。
比較項目 | L-グルタミン酸測定キット「ヤマサ」NEO | ヤマサ L-グルタミン酸測定キットⅡ | ||||
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構成内容 | R1酵素試薬液 | 30mL | 1バイアル | 50mMグッド緩衝液(pH7.1) | 60mL | 1バイアル |
R2酵素試薬液 | 30mL | 1バイアル | 酵素試薬(凍結乾燥) | 1バイアル | ||
L-グルタミン酸標準液(250mg/L) | 0.5mL | 1バイアル | L-グルタミン酸標準液(100mg/L) | 1.5mL | 1バイアル | |
試料量 | 0.01mL | 0.06mL | ||||
測定範囲 | 10~1500mg/L | 10~500mg/L | ||||
アスコルビン酸 共存試料 |
前処理不要 (1000mg/Lまで共存しても影響なし) |
処理必要 (100mg/L共存で測定値約30%低下) |
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テスト数 | 66テスト | |||||
貯蔵方法 | 2~8℃ | |||||
有効期間 | 製造日より12ヶ月 |
【測定値の比較】
各種試料を、本製品と従来製品で測定した結果を下記に示します。本製品での測定値は従来製品に対して94~106%を示しました。
試料 | L-グルタミン酸濃度(mg/L) | 本製品/従来品 | |
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本製品 | 従来品 | ||
Grace培地(10%FBS) | 700 | 747 | 94% |
トマト汁 | 2,032 | 2,072 | 98% |
醤油 | 10,701 | 10,850 | 99% |
市販だし溶解液 | 22,327 | 22,673 | 98% |
ソーセージ液 | 200 | 189 | 106% |
(注意)
・試料は、固形物からの抽出や不溶物の除去などを行い、適宜希釈の上測定しております。
・表示の濃度は、測定値と希釈率から算出しております。
・上記濃度はあくまで弊社での検討結果であり、一般的なL-グルタミン酸濃度を示すものではありません。
【アスコルビン酸の影響】
L-グルタミン酸溶液に、アスコルビン酸を0、100、1000mg/Lの濃度になるよう加えたものを試料とし、本製品および従来品で測定を行いました。本製品ではアスコルビン酸が1000mg/L共存している場合でも殆ど影響は見られませんでした。
●製品コード:80128
●本製品1キットに含まれる構成品:
R1酵素試薬液 R2酵素試薬液 L-グルタミン酸標準液(250mg/L) |
30mL 30mL 0.5mL |
1バイアル 1バイアル 1バイアル |
*1キットで約66試料が測定できます(同時に測定する標準液、精製水、試料色も含む)。
○貯蔵方法 ○有効期間 ○希望小売価格 |
2~8℃、暗所 製造日から12ヶ月(使用期限は製品外箱ラベル上に記載) 43,000円 |
(1) | 試料、標準液、精製水を各試験管に10μL分注 します。 | |
(2) | R1酵素試薬液を各試験管に450μL分注して混和します。 | |
(3) | 20℃~30℃で20分間静置します。 なお、アスコルビン酸除去操作が不要な試料の場合は、(3)省略して(4)へ進んでください。 |
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(4) | R2酵素試薬液を各試験管に450μL分注して混和します。 | |
濃色の試料の測定では、試料の色が吸光度に影響する場合があるため、試料色検体として試料10μLと精製水900μLを加えた試験管を準備してください。 | ||
(5) | 20℃~30℃で20分間静置後、精製水を対照にして555nmの吸光度を測定します。 | |
試料用 試験管 |
標準液用 試験管 |
精製水用 試験管 |
試料色用 試験管 |
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---|---|---|---|---|
試料 | 10μL | – | – | 10μL |
標準液 | – | 10μL | – | – |
精製水 | – | – | 10μL | 900μL |
R1酵素試薬液 | 450μL | 450μL | 450μL | – |
R2酵素試薬液 | 450μL | 450μL | 450μL | – |
吸光度 | A | S | R | B |
<濃度算出方法>
試料中のL-グルタミン酸の濃度は下記の計算式にて算出します。
L-グルタミン酸(mg/L)=(A-B-R)÷(S-R)×250×希釈倍率
○食品の「うま味」成分分析に
納豆、トマト、だし汁、醤油などに含まれるL-グルタミン酸量について本製品を用いて解析した事例が報告されています。
○グルタミナーゼやペプチダーゼの活性測定に
グルタミンをグルタミン酸に変換するグルタミナーゼやペプチドをアミノ酸に分解するペプチダーゼは、産生されたL-グルタミン酸を測定することで、酵素の活性を測定することができます5)。
※注意
上記使用例は、L-グルタミン酸オキシダーゼを用いた独自の測定法、あるいは従来品を用いた検討です。
・ | 醤油のような液状食品は、L-グルタミン酸濃度が10~1500mg/Lの範囲になるように精製水で希釈してください。醤油の場合、100倍から200倍程度の希釈が適当です。 | |
・ | チーズ、ソーセージなどの固形食品は細断して、10倍から20倍量の精製水またはリン酸緩衝液を加えミキサーにかけます。冷却してろ過を行い、ろ液を2倍から 5倍に精製水で希釈して試料とします。なお濁りがひどい場合には、遠心分離や再度のろ過を行ってください。除蛋白操作の必要はありません。 | |
・ | 培地は原液のまま測定できますが、測定範囲を超える場合は精製水で適宜希釈してください。 |
1. H. Kusakabe et al. (1983). Agric. Biol. Chem. 47(6). 1323.
2. 山内 寛 他: 日本醤油研究所雑誌、13(1);8,1987
3. H. Kusakabe et al. (1984). Agric. Biol. Chem. 48(1). 181.
4. 丸茂 剛 他: 日本醤油研究所雑誌、15(6);239,1989
5. H. Kusakabe et al. (1984). Agric. Biol. Chem. 48(5). 1357.